(連載:ESGと人事部 2/10)
業務を通して実施するESG活動で企業価値を高める

 近年、何かと話題になっている企業のESG活動ですが、ほとんどの企業で障がい者雇用対策や男女雇用機会均等対策、さらに省エネ対策などの法規制に則った活動として、既に継続実施されており、難しく考えなくてもよいことは、前記事「各社の社会・環境貢献活動実績の延長線上にあるESG活動」でご説明しました。このESG活動ですが、激化する気候変動や多様性への配慮、働き方改革等の社会課題に対処するため、今後益々企業に対応が求められるようになっていきますし、半ば義務化されるであろうことを見越して、企業としては大きく負担をかけない効率的なESG活動を企画・運営したいものです。本稿では、効率的にESG活動を推進するための考え方を紹介します。

1.ESG活動の概要

 企業のESG活動が、環境や社会課題解決のための法規制に従う形で粛々と進められてきたことは、前記事で概説しましたが、このような活動に加えて、企業の価値向上にESG活動を戦略的に取り入れていく動きも始まっています。せっかく実施するESG活動であれば、最大の費用対効果で企業価値向上につなげたいものです。企業とESG活動との関係を整理すると図1のようになります。

図1.企業へのESG活動の影響



 企業は商品・サービスを社会に提供することで収益を得て、その収益で社会に雇用機会を提供しています。その商品・サービスは、企業を取り巻く環境から資源、エネルギー等を利用して創出されますが、その製造・販売等の事業活動の過程において、廃水やエネルギー消費によるCO2排出等の負荷を環境に与えています。この環境への負荷を最少化する要請が省エネ法などの環境規制であり、雇用機会、雇用環境の改善要請が男女雇用機会均等法等の雇用規制です。

 この企業活動を通じた社会・環境の改善を加速させる取り組みとして近年活発化しつつあるのが、企業のESG活動に対しての投資家視点での評価です。企業のESG活動を第三者機関で評価・格付けし、社会・環境の改善に積極的な企業を資金投資を通じて応援する仕組みです。ESG投資と呼ばれています。ESG活動に積極的な企業の株券等を購入し、長期保有することで、経営基盤の強化を外部から支援し、ESG活動を継続してもらおうとの考え方です。このESG投資は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)等の機関投資家の標準的な投資指標となりつつあり、銀行での企業融資にまでESG評価が反映されようとしています。

 今後、企業経営にとってESG投資は無視できないものになりますが、その対策として、企業が、さらに人事部門が取り組んでおくべき課題は、「活動の継続」と「情報発信」です。ESG活動の根幹が社会・環境課題解決であることは前述しましたが、この課題解決は、企業経営を通じて一歩一歩進め、改善を積み重ねていく必要があります。そのためには、企業経営に連動させ、計画的に推進しなければなりません。ESG活動の推進は、社内の推進部門だけが担う事と捉えられがちですが、決してそうではありません。

 実際の社会・環境貢献活動は、業務をおこなうすべての従業員、経営陣が関わる事であり、活動の推進には、ESGマインドを醸成する教育が下支えとして重要になります。人事部門の人材育、人材マネジメントが、企業のESG評価を高め、結果として企業価値向上へ貢献をすることに繋がります。


2.社内外コミュニケーションの重要性

 次に、企業のESG評価を高めるために必要な「情報発信」について説明します。これまで企業価値の評価は、企業活動における財務面での評価とされていました。そのため、企業は定期的に経営状況、経営目標情報などを開示する事で、外部評価を受けていました。それが有価証券報告書や年次報告書(アニュアルレポート)などです。

 企業のESG活動も、企業側が積極的に情報発信しないと外部評価は受けられません。そのため、近年では多くの企業が財務面の情報開示と併せて、非財務面の活動としてEGS活動情報を公開するようになっています。ESG活動の情報発信内容は、企業の環境貢献活動と社会貢献活動に大別されます。環境貢献活動は、企業のエネルギー消費等を管理する工務・営繕部門とESG推進部門が主体となり、社会貢献活動は人事・総務部門が主体となって計画と進捗を管理して、その成果をESG推進部門・広報部門から情報を発信している場合が多いようです。

 ESG活動の情報発信をどのように、どこまで情報発信したら良いのか?と悩まれる担当の方も多いかもしれません。その場合、参考となるのが、競合他社や関連企業のESG報告資料です。直近版を見るだけでなく、数年分をまとめて確認し、他社が環境・社会課題の解決をどのように進め、どのようにアピールしているかを読み解いた上で、自社の推移を眺めると、自社なりの発信・アピールの仕方が見つかるはずです。ESG活動の情報発信は、費用対効果の高い企業価値向上策です。ぜひ検討してみてください。

 前記事と本記事で、企業のESG活動を俯瞰して理解していただけるよう概要を整理しました。次の記事からは、企業価値を高めるためのESG活動を企業に定着させ、推進していく人事部門から、人事部門として実施できる効率的な社会・環境貢献活動のアイディア等を提供していきたいと思います。



ライタープロフィール


筆名:柳紘理(やなぎひろみち)
工学博士
企業で長年研究開発から事業立上げまでを一貫して担当するとともに、国立大学・研究所の客員教授として、 環境経営や事業化に関連した規制基準を策定運営する学協会の運営に係る。