情報技術の革新によってもたらされた雇用環境の変化は、コロナ禍によりさらに急激なものとなりました。
また、政府の専門家会議が提唱する「新しい生活様式1)」の中には、テレワークやローテーション勤務、オンライン前提のコミュニケーションなど、働き方の直接的な改革を求める記載があります。
企業の人事部門は、自らも不安定な労働環境に身を置きながら、将来を見越した雇用活動を行わなければなりません。本記事では、そうした不確実性をコントロールし、職場に適した人材、人材に適した労働環境を確保するために重要と思われる項目を考察します。
業種、業態により差はありますが、コロナ禍により消費マインドが冷え込み、需要と供給のバランスが大きく崩れました。感染収束に備えてリストラを避ける企業が大半ですが、人件費は固定費です。コロナ禍が長期化するにつれ、余剰人員に対してシビアな判断を迫られるようになるでしょう。
一方で、時間、場所に捉われない働き方が普及し、先進的で柔軟な企業に人材が移りやすくなることも見込まれます。
いずれにせよ、人材の流動性が高まるのはほぼ確実です。自社にマッチする優秀な人材を引き寄せ、かつ長く力を発揮してもらうためにも、合理的で無駄のない労働環境の整備が急務と言えます
コロナ禍によって定着したイメージがありますが、総務省は以前からICTを活用した働き方改革2)を提言していました。
例えば総務省が運営するテレワーク総合情報サイト「Telework Net」ではテレワークの働き方改革のメリットを図のように分類しています。
引用ページURL テレワークとは | テレワーク総合情報サイト「Telework Net」
(https://telework.soumu.go.jp/about)
産業別に向き・不向きはあるものの、テレワークの普及は不可逆的な変化であり、決して一時的なものではありません。テレワークを前提とした労働環境の整備、人材教育は不可欠と言えます。
総務省はテレワークの普及を後押しするために、労務管理ノウハウや情報セキュリティ対策の専門家を無償で派遣する事業3)も行っています。もしテレワークの導入に不安があるなら、一度こちらに相談されることをおすすめします。
テレワークを導入すると、業務はもちろん、従業員同士のコミュニケーションもネットワーク上で行われるようになります。場所に縛られることがなくなりますから、オフィスに常駐する人員も少なくなるでしょう。
従来は、企業の成長とワークスペースの拡大には相関関係がありました。しかし、家賃は大きな固定費です。オフィス規模は信用の裏返しでもありますが、収束の見込めない疫病に晒されている状況下では、オフィスの縮小は経営スリム化の有効な手段となります。
すべてのケースで縮小・移転が最適というわけではありませんが、職場環境を整備する選択肢の一つとして、検討する価値はあるはずです。
従来の日本企業では、メンバーシップ型雇用という、時間を掛けて幅広い業務を教育していく採用スタイルが主流でした。長期雇用を前提に、専門職ではなく総合職として、その企業に適した人材に育て上げるわけです。
しかし昨今は、業務範囲が明確で、より専門的な技術に特化したジョブ型雇用の普及が見込まれています。こちらは職務や労働時間に明確なボーダーがある、成果主義的な働き方になります。
テレワークは、極論すれば業務の電子化です。成果物も電子化され、量や質を端末上で簡単に確認できるようになります。評価基準も、より実力に即したものに調整されるでしょう。
学歴や年齢ではなく、技術や経験など、より実務的な属性を重視した採用に、力点が移っていくことが予想できます。
従来の採用活動では、求人媒体や人材会社といった受け身の手法が主流でした。しかし求める人材の質が変わると、それに応じた採用チャネルを選択する必要も出てきます。先を見据えた企業の中には、SNSやオウンドメディアを活用した能動的な採用活動で、自社にマッチする人材を発掘しているところもあります。
今後は、採用チャネルの多様化に伴い、各チャネルに応じた柔軟な雇用戦略、クリエイティビティが求められるようになることでしょう。
時間、場所を問わない働き方が普及すると、管理の目が細部まで行き届かなくなります。そのため人事部門には、ルーチン化しづらい、個人にフォーカスした人材管理が求められるようになります。
多くの企業にとって、これはテレワーク導入にあたっての大きな課題です。
総務省が令和元年5月31日に発表した「テレワークの最新動向と総務省の政策展開」でも、テレワーク導入の大きな課題として人材管理に関するものが多く取り上げられていました。
引用ページURL:テレワークの最新動向と総務省の政策展開P8
(http://teleworkkakudai.jp/event/pdf/telework_soumu.pdf)
この資料の中では、先進事例を参考にした課題解決や、従業員の意識改革を重要視しています。
たとえば、テレワークを前提にした、個々の能力に応じた業務の割り振り、モチベーションを保つ評価制度、キャリア戦略などが挙げられるでしょう。
マネージャーの仕事と重なる部分もありますが、経営目線に立って組織全体の動きを把握しながら個を管理できるのは、人事部門だけです。各部門と連携しながら、各自が気持ちよく業務に取り組み、結果として組織が円滑に運用されるのが理想です。
リモートワークを採用した場合、業務の過程を細かく管理するのは現実的ではありません。各自に業務遂行の権限を委ね、その成果物で社員の能力を判断した方が合理的です。労働時間の長さや社内政治の上手さは、以前ほど評価には繋がりづらくなるでしょう。
人事部門には、自社の社風に合った成果主義の実現が求められるようになります。すでに、OKR(Objectives and Key Results)や360度評価、バリュー評価など、効果が認められている人事評価制度を参考に、制度の見直しを図っている企業も見られます。
コロナ禍により、雇用や組織の在り方が大きく変わろうとしています。企業の基礎部とも言える人事部門は、特に変化に対応するための学習能力、創造力が問われる時代になるでしょう。本質的な業務に集中するために、今後はBPOを活用した業務のスリム化も重要な選択肢となるはずです。まずは土台となる人事部門の生産性に目を向け、業務効率の改善を図ることをおすすめします。
1)新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html
2)テレワークとは | テレワーク総合情報サイト「Telework Net」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/
3)総務省令和2年度 テレワークマネージャー相談事業
https://teleworkmanager.go.jp/
ライタープロフィール
筆名:多田 真弥朗
様々な企業のマーケティングコンサルティグに関わる中で数多くの人材リクルーティング・人事部門の案件に従事。そこで培った人事部門系の豊富な知識をベースに独立し、コンテンツ ライターとして人事部門系、IT系、不動産投資といったテーマを中心に執筆活動を開始、現在に至る。