(連載:ESGと人事部 1/10) 各社の社会・環境貢献活動実績の延長線上にあるESG活動

作成者: 濱口 雄太|Aug 28, 2020 3:34:00 AM

 2020年は、新型コロナウイルスの世界的まん延で、企業活動、社会活動が大きく制限される事態となりました。このような社会・経済混乱の中にあっても、社会貢献活動を推進する企業が存在します。ビジネス環境の変化に対応しなければならない中であっても、社会が求める貢献活動を速やかに立ち上げることが出来るこれらの企業は、社会的に高く評価されるだけでなく、災害が過ぎ去った後の速やかな事業再興も図れる経営力の高さが想定され、投資家からの評価も高いと考えられます。

 今後も、コロナショックだけでなく、気候変動による大規模台風や豪雨、地震などのビジネスリスクにつながる災害が増える傾向にあるなか、企業の生き残り策として、企業のレジリエンスを高める取り組みをESG対応の視点から読み解くとともに、その重要な推進役である人事部門の役割等について順次解説して行きます。その第一歩として本稿では、ESG活動への理解から進めます。

1.ESG活動に繋がる企業対応の歴史

 いま、ニュースなどでも度々取り上げられるようになったESG対応、世界共通の目標である国連のSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)対応ですが、「ことば」としては見聞きしてはいるものの、会社の業務に織り込んで推進していると認識しておられる方々は、まだ一部のESG先進企業の従業員だけかもしれません。しかし、現在のESG、SDGs活動に繋がる社会・環境貢献活動の取り組みは以前より多くの企業で実施されており、一部を下記で紹介します。

図1.企業への社会的責任の要求と対応の歴史



 ESGとは、企業の環境(Environment)貢献、社会(Social)貢献、ソーシャルガバナンス:企業統治(Social Governance)といった非財務面での貢献を指し示す言葉で、それぞれの頭文字をとってESGと呼ばれています。

 社会貢献・企業統治への対応は、図1に示すように1960年代より積み重ねられています。当初は、障がい者雇用の促進として、その後、女性の雇用促進、さらに障がい者や女性など多様な人々が働きやすい雇用環境の形成へと、社会の要請に沿って企業の対応も進化し続けています。これらは、1960年の障害者雇用促進法、1976年の同法の改正による障がい者雇用義務化を経て、1986年の男女雇用機会均等法、2019年の働き方改革関連法等、順次施行れてきた法規制を受けての企業対応として進みました。 その過程でこれらを、企業を取り巻くすべての利害関係者(ステークホルダー)への責任として捉え、昨今では、社会的責任(CSR)経営として企業経営に織り込まれるようになっています。

 この一連の企業対応が、いま、ESG対応のSとGの側面として評価されているものです。こうして見ると、企業に求められるESG対応は、既に実施されていることが分かります。 また、ESGのEに当たる環境貢献も企業のステークホルダー対応の一側面である環境への配慮要請として、その対応も古くから多くの企業で実施されています。

 環境面へ企業が配慮するようになった発端の一つが1970年代の石油危機を受けて制定された省エネルギー法で、企業は、エネルギー利用の効率化を求められるようになりました。その後省エネは、石油等の化石燃料の燃焼利用によって排出される二酸化炭素(CO2)の発生抑制に繋がることから、気候変動を引き起こす温暖化対策の一手法として読み替えられ、今の低炭素社会形成推進に繋がっています(図2)。



図2.企業への環境貢献要求と対応の歴史



 このようにESG対応は既にほとんどの企業で図られていると考えられます。ESG対応は、持続可能な社会の形成のための企業努力ですが、それは、企業だけでなく、生活者も同様の努力義務を負うものとして、SDGsへと繋がっています。このように企業の社会・環境貢献を俯瞰して見ると、企業の日々の活動が既に国連のSDGs実現に繋がっていることをご理解いただけると思います。

2.ESG活動が求められる理由

 ESG活動は、当初、企業を取り巻く利害関係者(ステークホルダー)への悪影響を最少化する活動としてスタートしたことは上述しました。その活動の推進力は法的な拘束力でしたが、近年では、金融業界が企業のESG活動を後押しする動きも活発化しています。 それが投資家による企業へのESG投資です。投資家は、ESG活動に積極的に取り組む企業へ投資することで当該企業の経営基盤強化に貢献してESG活動を支えています。企業にとって、いまやESG活動は経営基盤強化のための事業戦略の柱となっています。

 ESG活動は、企業にとって新たな対応を求めるものではなく、これまで各企業が実施してきた法令遵守活動により投資家に積極評価してもらえる活動にブラッシュアップすることだと捉えると、身近に感じられるのではないでしょうか。 その実施のためには、ESG推進部門、経営陣だけでなく、すべての部署で業務に連動させて対応を図る必要がありますが、社内展開のカギとなる部署の一つが人事部門です。これからESG活動で企業価値を高めるために必要な人事部門の役割について順次解説していきます。

 

ライタープロフィール

筆名:柳紘理(やなぎひろみち)
工学博士
企業で長年研究開発から事業立上げまでを一貫して担当するとともに、国立大学・研究所の客員教授として、 環境経営や事業化に関連した規制基準を策定運営する学協会の運営に係る。