コロナ禍において、秘書がリスクと向き合うヒント

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日本秘書協会 理事 及川 学
Jul 28, 2021 11:04:36 AM

 2021年7月8日、この日は秘書にとって今年の中では特別な日だった方が多かったかもしれません。今回のオリンピックの無観客ルールが正式に発表されたからです。コロナ禍前を含む数年、準備していたオリンピック対応のかなりの部分が無くなったと決まったのです。翌日の9日夕方、私が進行係を務める秘書管理職フォーラムが行われ、オンラインなどで参加したたくさんの秘書管理職の何人もが、無観客を受けて、前日からフォーラムの参加直前までに、自社の役員が招待を受けていた先からの無観客化によるキャンセルの連絡応対や、オリンピックパートナーとして招待をしていた先への連絡などで、大変な忙しさだったと語りました。このようにイベントが実行される時だけでなく、中止や変更になる時こそ、秘書はその対応スキルが求められます。

 秘書管理職の大先輩の実例ですが、その方はすべての役員の靴のサイズ、腕の長さなどを控えたメモを常に持ち歩き、急にお通夜などに役員が出席しなければならない時には、弔問用の衣類と靴などを買い揃えて、葬儀会場近くで部屋を確保し、役員の到着を待ってサポートされたとおっしゃっていました。参列予定役員の交代や、クールビズ姿の出先から駆け付けなければならない時に対応できる見事なリスク管理です。

 前述の秘書管理職フォーラムでの集計によると、コロナ2年目になって企業のイベントも増えており、中止やオンライン開催の比率が減ってきています。コロナ禍によりテレワークが多くなると、秘書は取引先の周年行事、社葬やパートナー会などに役員が出席する当日も、会社で持ち物などの準備のサポート、お見送りや帰社後の対応などが直接できなくなり、その結果、リスク管理もゆるくなるとともに、イベントサポート機会も減っているため、サポートスキルや経験値を上げることが難しくなっています。

 そこで、秘書がリスク管理力を高める上で有効と考えられるヒントを3点ご紹介します。

 

1つ目は、全社の災害マニュアルを参考にしつつ、秘書室でも役員サポートマニュアル・リスク管理編を作っておくことです。

 ある会社の事例ですが、役員のパソコンの調子が悪い時に情報システム部門に来て直してもらう場合、必ず2名以上来てもらうのがルールです。直す作業において、パソコンのメール、データなど重要情報を見られる可能性があるので慎重性が必要なのもありますが、作業ミスの防止や、あってはならないことですが、ウイルスやトリックなどの仕掛けを抑止できるからです。

 マニュアル作成での留意点の一つは、平日に災害が起こるとは限らないことです。一年を時間で割れば、平日の勤務時間は25%。残りの75%にあたる夜や休日に災害が起こった時のルールもきちんと盛り込むことです。

 

2つ目は、オンライン、在宅だからできることを実行することです。

 今年になって、オンラインによる企業間の秘書交流が増えています。日本秘書協会や私が橋渡しをして管理職同士で調整し、両社の秘書の交流ミーティングを1時間程度実施しています。他社情報を欲していることや、同じ秘書職の人と会話できることでモチベーションが高まります。この時のポイントは、スケジュール管理などの話だけではなく、役員サポートやテレワークにおけるリスク管理方法も話し合うことです。

 会社よりも自宅のIT環境は脆弱ですので、携帯電話、パソコンなどのデータが消えた場合の対応や、ウイルス、ハッカー対策なども、各社の情報システム管理手法が違うと片付けずに、機密を取り扱う秘書ならではの工夫などを教えてもらいましょう。

 ITは大きいリスクの一つです。Oliveの様に専用の秘書室システムであれば、バックアップや万一の復旧も安心ですが、簡易なオフィスツールなどでスケジュール管理や顧客管理を行っていると、万一の時に元に戻すのにかなりの時間を要する時や回復できない場合もあります。

 

3つ目は、テレワークでいろいろなスキルが必要になってきているので、持っているスキルの棚卸をし、これから身につけなければならないものの取組みプランを立てることです。

 オンラインで参加できる研修が増え、専門分野のサイトも多様化してきました。秘書として必要なスキルであれば管理職に申請し、活動計画に組込む許可や費用補助も得られる可能性があります。

 知らなければ何でも聞けばよいと思っている人が増えていると聞きます。秘書もチャットを社内で使うようになり、これまで直接先輩秘書に聞きにくいことが、少し気楽にチャットで聞けるようになりました。しかし、聞く側にもそれなりの知識やスキルがないと回答を理解することができない時もあります。

 役員の指示で法務や経理に問い合わせする場合でも、その回答をある程度理解できるスキルが必要です。スキルがあれば、法務に対し役員が聞きたい趣旨を説明することができますし、法務の回答を役員に判りやすく伝えることもできます。

 

 テレワーク中は、役員からいつ連絡が入っても対応できるようにするため、秘書は勤務作業を計画的に組むことが難しいのですが、上記の3点は計画して行えるものなので取り組まれてはいかがでしょうか。

 何かが起こった時にどうするかだけではなくて、それをきっかけにして、それまでできなかったことをやるチャンスでもあるのです。

 

 このコラムの執筆者 

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一般社団法人 日本秘書協会
 理事
 秘書管理職委員会 委員長
及川 学

東証2部のIT企業で20年近く秘書・経営企画の管理職を経験。日本秘書協会では、秘書管理職フォーラムの責任者として、全国の秘書管理職の問題解決や課題達成を支援。コロナ禍においても秘書のテレワークなどに関する相談先として対応。同協会の認定講師として「経営サポート力講座」「秘書基礎講座」「新任秘書管理職講座」なども担当。

著書:
・『秘書室長実践マネジメントマニュアル』
  代表著者(アーバンプロデュース社)
『よくわかる経営知識』
  (日本秘書協会)