人事部門の働き方も変わる?在宅勤務のメリット・デメリット
ICT技術の進歩に働き方改革、そしてコロナ禍という状況に後押しされて、新たな働き方である在宅勤務が注目を集めています。
スムーズに導入できている企業がある一方で、設備の整備や社内制度の調整に難儀している企業、様子を見ている企業など、対応は様々。
本記事では、在宅勤務のメリット・デメリット、導入企業の従業員の声などを参考に、人事部門が今後どのように企業制度を整えていくことが望ましいかを考察します。
在宅勤務の主なメリット

出典:厚生労働省 テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン 4p
(https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf)
これらのメリットは、いずれも経営効率の向上に集約できます。以下がその根拠です。
1.コスト削減に繋がる
在宅勤務の従業員が増えれば、そのぶん、省スペースでオフィスを運用できるようになります。移転や設備の調整にイニシャルコストが掛かるため、短期的には損をするかもしれません。
しかし、家賃のほか、光熱費、交通費といった細々したランニングコストをまとめて削減できますから、計画的に行えばほぼ確実に経営効率を改善できます。
また、厚生労働省が運営しているテレワーク総合ポータルサイトによると、在宅勤務を導入した企業の多くで、残業代が10%以上減少しているというデータもあるということです。
2.生産性が向上する
在宅勤務では、ほとんどの場合、ネットワークを通してコミュニケーションが行われます。
端末を操作すれば情報共有ができますから、打ち合わせのために時間を調整したり、移動したりする手間が掛かりません。
一つのことに集中できる環境が整うため、個々人の作業効率の向上が見込めます。
また、情報は基本的に電子化されますから、紙資料に比べて管理や参照が劇的に楽になります。端末に記録が残るので、言った言わないなど、コミュニケーションの齟齬によるトラブルも回避できるようになるでしょう。
3.オフィスワークでは雇えない優秀な人材を発掘できる
居住地や育児、障害などが理由で、望む職に就けない優秀な人材はたくさんいます。
在宅勤務を採用すれば、そうした隠れた人材を発掘できる可能性も高まります。実際、グローバルに活躍するIT企業などは、遠隔地の優秀な人材、外国籍の人材を在宅勤務で雇用していることが少なくありません。
また、時間や場所に縛られる必要がなくなる、業務における自由度が高まる、という点は、既存の従業員にとっても大きな魅力です。新規雇用だけでなく、離職防止の観点からも、効果的な施策となることでしょう。
在宅勤務の主なデメリット
導入メリットの多い在宅勤務ですが、一方でデメリットもあります。こちらも厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を参考に、概要をまとめてみたいと思います。

出典:厚生労働省 テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン 23p
(https://www.jil.go.jp/institute/research/2015/documents/0140.pdf)
上図の傾向を見ると、在宅勤務の大きなデメリットは、一朝一夕での導入が難しく、また管理・運営していくためのノウハウが曖昧、という点にありそうです。
例えば、以下のようなことが、導入の障害となるケースが考えられるでしょう。
設備が整えられない
従業員の就業環境がバラバラだと、管理・運用に手間が掛かります。そのため、モバイルWi-Fiや作業用の端末は、企業側で用意し、貸与するのが一般的です。
ただ、業務内容に適した設備の選定には、ある程度の専門知識が求められます。
また、コミュニケーションやデータの受け渡しに使う各種ICTツールを選定したり、情報セキュリティを踏まえた使い方を共有するなど、クリアしなければならないハードルが少なくありません。
マネジメントが難しい
在宅勤務では、従業員がいつどこで何をしているのか、基本的には自己申告で把握することになります。
細々した管理業務から解放される反面、勘所を押さえて進捗を確認しておかないと、後々でトラブルに発展する可能性も考えられるでしょう。
また、在宅勤務であっても、労働基準関係法令は適用されます。就業規則に規定がなければ、在宅勤務を命じる規定や労働時間、各種経費の負担に関する規定を改めて追記し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
それに際して、追記内容を従業員に周知し、合意を取っておく必要もあります。従業員の権限を大きくする一方で、経営層にデリケートな舵取りが求められるのも、在宅勤務を導入するうえでの障害の一つと言えます。
社員同士の関係性が希薄になる
在宅勤務により、社員同士が接触する機会は確実に減少します。
文字ベース、映像ベースでコミュニケーションを取ることはできますが、対人でのやり取りに比べて、細かいニュアンスは伝わりづらくなります。
モチベーションの維持や、メンタルケア、チームビルディングなど、従来とは違ったアプローチで、組織の生産性を管理するノウハウが必要です。
アナログベースからデジタルベースへのシフトチェンジは、企業文化によっては一筋縄では行かないことでしょう。
在宅勤務を経験した従業員の声
続いて、株式会社あしたのチームが2020年の7月に発表した「withコロナの働き方と人事評価に関する調査(有効回答数300人)」を参考に、在宅勤務を経験した従業員の声を分析します。
ポジティブな評価

アンケート結果によると、在宅勤務を経験した300人のうち、約8割の人が、今後もテレワークを続けたいと回答しています。
要因として大きいのは、満員電車による通勤、会議、電話といった直接業務に関係しない拘束時間が減ること。そして、それによる生産性の向上です。
ほか、成果主義になり、自分のペースで時間が使えるようになった、責任が増したことで仕事に集中できるようになった、というような声も見られました。
ネガティブな評価

ネガティブな評価で多いのは、業務内容や設備的な制限により、デジタル化が難しい、というものでした。
ほか、「勤務態度が見えない」「成果につながる行動を細かく把握しづらい」といった理由から、管理職の約7割が、在宅勤務は人事評価が難しいと回答しています。
日本企業の雇用制度は、時間を掛けてジェネラリストを育成する仕組みが主流です。そのため個人の業務範囲が曖昧で、成果自体よりも経験年数や頑張りに評価の主眼が置かれます。
在宅勤務をスムーズに導入するには、業務のパッケージ化や従業員の明確な目標設定など、欧米型のジョブベースの働き方を取り入れる必要がありそうです。
企業文化に応じた柔軟な導入が重要
一口に在宅勤務といっても、その形態は一つではありません。主なところでは、以下のような種類があります。

また、個人事業主に一部の業務を委託する、自営型の在宅勤務という形態も存在します。
現状では、在宅勤務には正解がありません。どういった形態を選択するかは、個々の企業が置かれている状況によって変わってきます。
コロナ禍によって加速された側面はありますが、在宅勤務の普及は国や経団連が長年普及を促しているものです。新型コロナウイルス感染症の収束如何に関わらず、今後当たり前の働き方になっていくことは、確かと言えます。
遅かれ早かれ、人事部門には企業文化にフィットする在宅勤務の導入が求められることになるでしょう。創造的な業務が増え、各種ICTツールの使い方も学習しなければなりません。
そうした変化に対応するためにも、情報収集を綿密に行い、人員調整を行ったり、ルーチンワークをアウトソースしたり、コア業務に集中できる環境を整備しておくことが肝要と考えられます。
参考文献
1)情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000545678.pdf
2)効果・効用 | テレワーク総合ポータルサイト
hhttps://telework.mhlw.go.jp/effect/
3)テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf
4)テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜
https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf
5)~withコロナの働き方と人事評価に関する調査~
https://www.ashita-team.com/news/20200721-2/
ライタープロフィール
筆名:多田 真弥朗
様々な企業のマーケティングコンサルティグに関わる中で数多くの人材リクルーティング・人事部門の案件に従事。そこで培った人事部門系の豊富な知識をベースに独立し、コンテンツ ライターとして人事部門系、IT系、不動産投資といったテーマを中心に執筆活動を開始、現在に至る。