これまでの記事では、企業にとってのESG活動の位置づけや推進する上での各組織における役割をご説明しました。特に全社にESG活動を根付かせ、実効性のあるものにする基本が人材教育を通じたESGマインドの醸成にあります。本記事からは、人事部門で実施するESG活動の具体例やヒントを、省エネ(CO2削減)、省資源、地域貢献、社内環境整備、ガバナンス強化の順にご紹介していきたいと思います。
1.部門運営の省エネ、CO2削減(短期施策)
生産工程等での省エネは、省エネ法や経団連低炭素社会実行計画等の規制を受けて、担当事業部門と工務・施設管理部門が協業して計画的に推進していると考えられますのでここでは触れず、間接部門の省エネ推進における人事部門の役割について考えたいと思います。
はじめに、省エネとCO2削減との関係を整理しておきます。「各社の社会・環境貢献活動実績の延長線上にあるESG活動」で解説したように、1970年代の石油危機対策として企業に省エネが求められ、各企業で生産機械の高効率化などが進められ、日本は省エネのトップランナーとなりました。
しかし、地球規模でみると、開発途上国におけるエネルギー消費の急拡大などでエネルギーを利用(燃焼)した時に発生するCO2で地球が温暖化し、気候変動が激化する社会問題が表面化しました。そのため、日本を含めた世界各国に更なるエネルギー消費削減によるCO2排出削減が求められるようになりました。
はじめに、省エネとCO2削減との関係を整理しておきます。「各社の社会・環境貢献活動実績の延長線上にあるESG活動」で解説したように、1970年代の石油危機対策として企業に省エネが求められ、各企業で生産機械の高効率化などが進められ、日本は省エネのトップランナーとなりました。
しかし、地球規模でみると、開発途上国におけるエネルギー消費の急拡大などでエネルギーを利用(燃焼)した時に発生するCO2で地球が温暖化し、気候変動が激化する社会問題が表面化しました。そのため、日本を含めた世界各国に更なるエネルギー消費削減によるCO2排出削減が求められるようになりました。
図1.省エネとCO2削減との関係

このような背景から、各企業は省エネ効果をCO2削減量として評価し管理する事となりました。省エネ効果をCO2削減量に読み替えるのは、図1の概念を用いておこなわれます。企業の省エネによるCO2削減は、毎年改善効果を重ねることが省エネ法、経団連低炭素社会実行計画等の規制で求められているため、各企業では、省エネ活動の対象を生産工程からオフィスまで順次拡張してきています。
間接部門では、使っていない会議室や昼休みなどの消灯や空調温度の管理といった日常の取り組みと、照明やPCなどの事務機器を省エネ型に交換するなどの省エネ投資を組み合わせて、オフィスでの電力エネルギーの削減をおこなっています。電力は、石油、石炭等の化石燃料を燃やして発電するため、電力消費削減が発電時の燃料消費削減につながりCO2削減に寄与することになります。
省エネは、国が求めるCO2削減に貢献することにつながりますし、企業にとってもエネルギー費用の削減という経済効果を生むことができます。省エネ投資は、省エネによって得られるランニングコストの削減効果と投資金額との費用対効果を評価して工務・施設管理部門等で合理的に判断されます。
日常の取り組みにおける成果を得るには、各社員に省エネ行動を促す必要があります。そのためには、各社員に省エネ行動をとる意義を納得してもらうことが重要となります。省エネ行動の意義を地球温暖化のためである、と言っても現実味がないため、省エネによって得られる会社への経済効果が、会社の経営強化、安定に繋がることを強調したメッセージを発している会社も見受けられます。
この省エネマインドの醸成には、繰り返し情報発信して、全社員に省エネ意識をもってもらうことが重要です。そのためには、ESG推進部門、工務・施設管理部門が発する省エネ喚起ポスター等のメッセージだけでなく、階層別教育の中で繰り返し会社にとっての省エネ行動の重要性を社員に説いていくことが必要です。
2.働き方改革の省エネ視点評価(中長期施策)
2020年は新型コロナウイルスの蔓延で労働環境が大きく様変わりしました。テレワーク等の働き方改革が今後多くの企業に定着していく様相ですが、この働き方改革は企業の省エネ、CO2削減にも寄与します。効率的なテレワーク等の定着のためには、透明性のある成果管理といった人事管理制度の構築が重要ですが、テレワーク効果の一つである省エネ、CO2削減効果も把握した上で、会社への導入シナリオを検討することも省エネへの貢献となり得ます。
テレワーク導入による社員の環境負荷低減は、間接的な効果として定量的に算出可能です。算出のための基本的な考え方は、環境省・経産省の「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」で開示されています。通勤時の電車や自動車の利用を削減して得られる省エネ、CO2削減効果と、社員が自宅で勤務することで追加発生する電力消費分などを積算し、さらにオフィスの電力削減等を積み上げることで算定することができます。
算定は、当該分野の専門家集団であるESG推進部門が担い、人事部門はその基礎となる社員の通勤情報等を提供することで実施可能です。また間接的な寄与に関する算定に実績がない会社では、環境影響評価に長けた大学等の研究機関にアウトソーシングしてノウハウを得ることも有効です。
企業のESG活動は、その成果を見える化して外部に発信することで、企業価値向上に繋げられることは、「業務を通して実施するESG活動で企業価値を高める」などで解説しました。今回提案したテレワーク導入における効果も情報開示の対象となり得ます。算定根拠を確かなものとして透明性を確保した情報開示こそが外部からの信頼性確保に繋がります。
コロナ禍は社会に構造変革を促す契機となっています。多くの企業の人事部門が経営管理部門などと協力して、アフターコロナの会社運営像を検討しておられるものと思います。大きな労力を割いて進める働き方改革であれば、その効果を社員の福利厚生や収益への影響だけでなく、社会・環境への影響も定量的に評価して、積極的にアピール、社内外からの共感、評価獲得に繋げてください。
ライタープロフィール
筆名:柳紘理(やなぎひろみち)
工学博士
企業で長年研究開発から事業立上げまでを一貫して担当するとともに、国立大学・研究所の客員教授として、 環境経営や事業化に関連した規制基準を策定運営する学協会の運営に係る。