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2020/6/1 人材研修

リテンションマネジメントとしてのOJTについて

 経済環境が成熟型になって以降、中小企業の人材育成ではOJTが大きなウェイトを占めています。現行のOJTの問題点から好ましいOJTを探ります。好ましいOJTとは、個人のモチベーションを高め、組織コミットメントを高めることにより、組織パフォーマンスを最大化させることが目的です。そしてこれはリテンションマネジメントの考え方にも一致します。結果的に好ましいOJTはリテンションマネジメントの手法のひとつとして有効であると言えます。本稿では、その具体的な施策も含めて検討をしていきます。

OJTの目的

はじめに、OJTとは何かについて定義しておきたいと思います。ここでは、鬼頭(2015) に従い、「教育担当者が日常業務を通じて、仕事を進めるうえでの必要な知識・技能・態度について指導・助言すること」としておきます。 次にOJTの目的についてです。集団の性格や時期などによって、新人育成のため、リーダー候補育成のため、資格実務のためなど、状況によって様々な目的が考えられますので、ここでは最も一般的な、新卒または社会人2~3年程度の中途採用者を対象とした能力開発のため、としておきます。

 

OJTの問題点

 厚生労働省が全国の企業や事業所から回答を得た「平成30年度能力開発基本調査」(有効回答数8,930)によると、OJTを重視する、または重視に近いと考える企業は73.6パーセントとなっています(図表1 参照)。同調査では人材育成の問題点についても質問しており、「指導者不足」と「育成しても辞めてしまう」と考えている企業がともに半数以上ありました(図表2参照)。  また、独立行政法人労働政策研究・研修機構は平成29年に「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」において、OJTの実施状況について複数回答方式で質問しています。結果は次のとおりです。

  • とにかく実践させ、経験させる。(59.5%)
  • 仕事のやり方を実際に見せている。(55.2%)
  • 仕事について相談に乗る。(50.8%)
  • 仕事を行う上での心構えを示している。(38.7%)

 

 これらの結果については、従業員数の多い企業よりも、従業員数の少ない企業のほうが、あてはまると回答している割合が多いようです。

図表1 重視する社員教育

出所:厚生労働省 平成30年度能力開発基本調査

 

図表2 人材育成の問題点

出所:厚生労働省 平成30年度能力開発基本調査

 

好ましいOJTを考えるためのヒント

前項の問題点に関する調査によって、ひとつのモデルが見えてきました。 【人材育成にはOJTを重視している。しかし、指導する担当者が不足している上に、そもそも人材育成に割く時間がとれない。だから、せっかく育成しても辞めてしまう。】 【OJTでは、やり方を見せて、とにかく実践させる。】 というものです。 では、こうしたモデルに対して、好ましいモデルとはどのようなものでしょうか。この問いは、次のように言い換えることができます。

 

  • OJT教育は誰が行うべきか。
  • OJT教育は何をどのように行うべきか。
  • 仕事について相談に乗る。
  • 定着に結びつく育成教育はどのようなものか。

 

 これらのアジェンダについては、後ほど、後半のセクションで考えてみます。

 

リテンションマネジメントと人材育成の関係

ここからは少し話題を変えて、リテンションマネジメントについて先行研究を基に考えてみます。 スタンフォード大学ビジネススクールのフェファー教授は、フェファーモデルと呼ばれる、高業績を生み出す条件を示しています 。

  • 雇用の保証
  • 徹底した採用
  • 自己管理チームと権限の委譲
  • 高い成功報酬
  • 幅広い教育
  • 格差の縮小
  • 業績情報の共有

 

以上の7つが示された条件です。このモデルは人材マネジメント論のいくつかの「流派」のひとつで、リテンションマネジメントにも応用されています。  条件のひとつとして「幅広い教育」があげられていますが、人材教育がただちにリテンションマネジメントに有効であるとは限りません。教育の効果として高いモチベーションとコミットメントを達成することが重要です。そこで、ある会社を例に、人材育成で高業績をあげるに至った事例を見てみます。

Trouble at Tessei に見るコミットメントの要件

 新幹線の清掃を行う企業が各種メディアに取り上げられ、人材マネジメントのみならずリーダーシップのケーススタディとして用いられています。2015年にはハーバードビジネススクールでも教材となっています。そしてこの教材の著者が最も注目している点は、上司にガミガミ言われることなく、高い報酬を得られるわけでもないのに、行届いたサービス品質を実現できる要因はどこにあるのか、ということです。そこで、その教材 から高いモチベーションとコミットメントの源泉となるマネジメント手法を抽出してみました。(ただし、清掃業務を限られた時間で丁寧に行うためのノウハウについては、ここでは取り扱いません。)

ビジョン・ミッションの共有
清掃会社では、顧客に良い思い出でをつくってもらうことをミッションとし、全員で共有しました。

ビジョン・ミッションの現場作業への落とし込み (コミュニケーションツールとフィードバック)
目立つ活躍のない人でも、例えばトイレの目に見えない部分まで清掃をした、というレポートをリーダーが行い、共有することで現場作業にミッションが徹底されました。また、このレポートにより承認を得た清掃員は更にモチベーションを高めることができました。

現場作業の意味や個人の役割の理解
なぜその作業をする必要があるかといった、目的を理解させました。それにより、行動に責任がともない、ミスも減少しました。

対称性の担保されたコミュニケーション
上司から指示されるだけではなく、新しいアイデアがあれば、どんどん発言できる空気をつくりました。

以上のように分析できました。それでは次の項で、分析結果をOJTに楽に反映するとどうなるかを検討してみます。



効果的なOJT施策とは何か

本稿の第3項で積み残したアジェンダ、すなわち、OJT教育は誰が何をどのように教育すべきかについて、先ほど分析した結果を手がかりにして検討します

ビジョンとミッションの共有
 ビジョンとミッションの共有は、OJTでは最初に共有すべき事項です。しかも、清掃会社のように誰にでも理解できる簡潔なフレーズのほうが浸透しやすいようです。

ビジョンとミッションの現場への落とし込み
 企業戦略や事業計画は当然ながらビジョンやミッションを反映したものです。現場レベルには、更に具体的に落とし込みが必要です。OJTの場合は、スキルマップを用います。スキルマップとは職務定義書を必要な技能別に細かく書き出したものに、チームのメンバー全員分のスコアをマッピングしたものです。技能ですから、資格も含まれます。チーム内に、どのレベルのスキルを持った人材が何名必要か、という要員要因計画にも用いられます。また、コミュニケーションツールとしてOJTシートを用います。目標管理シートを簡易にしたもので、到達目標をスキルごとに記入します。評価者はフィードバックを行います。重要なことは、管理監督するための用いるものではなく、行動を承認し、または気づきを与えるためのコミュニケーション目的に使用する、ということです。
誰でも、入社直後は期待されている役割が果たせているかどうか、不安になるものです。OJTシートを用いれば、到達レベルも把握しやすくなります。

現場作業の意味や個人の役割の理解
 今日ではどの職場でもマニュアルが備えてあります。一度教わったことを何度も尋ねるのは気が引けるので、あると助かります。しかし、教わったオペレーションとは異なる方法を思いついた新人社員がベテラン社員にその方法を提案したところ、「マニュアルに書いてないからダメ」と断られたケースがあります。これは、対応が間違っています。マニュアルに書いてある方法は、なぜそうなのかを理解したうえで、その理由を説明してあげなくてはいけません。例えば安全面の配慮かも知れません。理由がわかれば、ミスも減りますし、覚えるのも早くなります。

対称性の担保されたコミュニケーション
対称性とは、立場の対称性や情報の対称性があります。上司から命じられるだけの立場と、対等にコミュニケーションできる風土とでは、モチベーションが異なります。また、情報や知見も対象性が必要です。例えば、先輩社員から「これをいつも通りコピーしておいてください。」と指示されたとします。新入社員はいつも通りがどのようなものか理解できません。作業知識の非対称性に由来する問題です。さらにその新入社員はAさんにいつも通りの方法を尋ねたところ、ホッチキスを左側に2点留めと言われました。同じ事をB先輩からは左肩側1点留めと言われました。こどちらが正しいか新入社員には判断がつきません。類似したことは日常に頻繁に発生します。効果的な方法として、「ティーチングマニュアル」があげられます。新人が覚えるべきことをスタンダード化するのではなく、教えるべきことをスタンダード化するわけです。また、ティーチングマニュアルを整備することによって、OJTのトレーナーも負担を均等化できます。

 

おわりに

OJTで何をすればリテンションマネジメントとして効果的か、という問題については、先行研究が少ないため、具体的な施策を提示するには限界があります。しかし、今後、専門的・知識集約的な産業構造に転換すると、さらにその必要性は高まります。なぜなら、個人の能力を常にアップデートし続けなければ、環境の変化に適応できないからです。失敗事例も含めて取り組み状況をシェアするしくみづくりが待たれます。



(参考文献)
1)鬼頭文隆「OJT の様式の多様性に関する実証的研究(2015年、名古屋大学)
2)平野光俊「人材を活かす企業-人材と利益の方程式」(労働政策研究・研修機構 2016年)
3) Ethan S Bernstein & Ryan W Buell “Trouble at Tessei”(HARVARD BUSINESS SCHOOL 2015)
4)同教材筆者への日本語インタビュー記事:東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/134844

ライタープロフィール
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